海を眺める山の中の一軒家に、熟年のおじさんとおばさんが住んでいます。
家の周りをクワやシャベルでチョコチョコと耕して、いろんな野菜を植え生計の足しにしています。
山の中なので小動物もいろいろいます。
大石を動かしたり土をひっかいたりして要らない所を耕すイノシシ。
山の斜面にやたら穴を開け山を崩しかねないアナグマ。
野菜の葉を食べてしまうノウサギ。
地中の落花生を食い荒らすノネズミ。
とてもとても退治しきれません。
ある日おばさんが外の流しで畑から抜いてきた菜を洗っていたら、足元でク~とかミュ~という音が。
自分のお腹がなっている?と思ったのですが、どうも違う。
腰を折って流しの下を覗くと、白い子猫がサーッと飛び出し、一目散に逃げました。
ノラが入ってきたようだ。
しばらくすると今度は表の縁の下で、ミュ~。
近寄ろうとするとまたサーッと逃げました。
かなり警戒をしながら、でも餌が欲しくて寄ってきたのでしょうねぇ。
それを見たおじさんは、食品棚からマルちゃんの赤い魚肉ソーセージを取り出してフィルムを剥がし、スチロールトレーに載せて庭に置いたのです。
ここまでは単なる興味と衝動的な行動です。
ノラはやっぱりまたやってきました。
今度は玄関前のテラスです。
だんだん近寄ってきます。
そこから庭に置かれたソーセージをじっと見つめています。
ソーセージを食べたことがあるはずは無いから、猫の嗅覚が探し当てたのでしょう。
ずいぶん長い時間見つめていましたが、食欲が痺れを切らしたのか、やおら立ち上がりゆっくりと目的物に向かいました。
少し嗅いでから咥え、駆け足で山の陰に消えました。
その夜、おじさんとおばさんが話し合いました。
ノネズミが倉庫内を荒らすから、ネズミの番人として餌付けしようかということに。
でも室内には入れずに、彼(彼女)の生活スペースは縁の下か裏の軒下で、餌は野生を失わない程度に与える、ということでと相談が纏まりました。
翌日、またやってきました。
今度はおばさんが、スチロールトレーに煮干のだしがらを数本。
そのうちの半分は少々鮮度が落ちていました(でも腐ってはいなかった)。
近づくと一旦は逃げましたが、いつの間にかやってきて「硬いなぁ~」という顔をしながら食べていました。去ってから見ると鮮度が落ちていた分は残っています。
また翌日来ました。
今度は縁側にきちんと足をそろえて座り、ガラス戸越しに室内にいる二人に向かってミャー、ミャーと、何かを訴えるようなそぶり。
今年の春に生まれたと思える大きさで、体はほぼ白で鼻すじに黒い線がスーッと通っています。
白と黒の色合いが逆なら、アンタずいぶん美人、ちがった美猫だったねぇ、などと思いながらも
おばさんはたまりませんでしたが、じっと我慢し「だめだよ」と答えました。
スチロールトレーに焼いたアジの骨を載せて持っていくと、やはりサッと逃げましたが、やがて来てその場で平らげました。首を斜めにして苦戦していましたが。
その翌日の夕方はしょぼしょぼと冷たい雨。
外に出ると、また泣き声がします。
裏の軒下の作業台の下でうずくまって、おばさんを見上げて何か言っています。
「寒くなってきたね。外は雨だからここにいなさいね。」と諭すと
返事をするように、また「ミャー」。
このときのおばさんとノラとの距離は2メートル。
逃げようとはしませんでした。
翌朝見るといませんでした。
その後、何日も雨や風が強い日が続きノラはやってきません。
穏やかに晴れあがっても、やっぱり姿を見せません。
どこで何を食べているのか・・
山の中で、きっとこう思っているのでしょう。
「いくらお願いしても室内には入れてくれないし、エサといえば硬い骨や出し殻ばかり。
ヘンッ、猫バカにして! もう金輪際行ってやるものか!」
名前の検討もしましたが決まりません。
餌皿も店で手にとってみましたが、餌付けができたらということでオアズケ。
ノラにはおじさんとおばさんのこんな腹の内が読めたのでした。
そこまで人間様に媚びなくても、トカゲやコオロギを食べて生きていくわサ・・
猫も、生れ落ちた時から野良であれば野生そのものなんですねぇ。
がんばって強く生きるんだよ。
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